フォントベンダーのフォントワークス社。
クリエイティブ業界では知らない人はいないであろう有名企業のリブランディングの依頼がディーゼロに舞い込んだ。
“日本中のクリエイターが見るサイト”である。
フォントベンダーのフォントワークス社。
クリエイティブ業界では知らない人はいないであろう有名企業のリブランディングの依頼がディーゼロに舞い込んだ。
“日本中のクリエイターが見るサイト”である。
『フォントワークス』はデジタルフォント(書体)の企画・開発を行っている企業で、業界初の年間定額制フォントサービスを提供するなど、クリエイティブ業界でも先駆け的な存在だ。
ディーゼロがサイト制作を手がけたのは、2016年。当時、サイトリニューアルについてのオリエンテーションにプランナーとして参加した黒木は、クライアントの話を聞き、「クライアントが本当に求めているのはリニューアルじゃない」と途中でオリエンテーションの場をひっくり返してしまったという。
その後、同社からコーポレートロゴ、製品ロゴリニューアルのコンペが舞い込んだ。黒木の問題提起により、同社のオーダーは「コーポレートアイデンティティでもあり、ブランドの発信ともなるロゴを新しくつくること。」となった。
そのコンペはベストな提案をした会社にサイトの設計や動画作成、パンフレットやノベルティの制作などを一任するというビッグ・プロジェクトとなっていた。ロゴだけの制作はディーゼロでは初めての試みで、大きなチャレンジである。
ディーゼロではクライアントのニーズを引き出す役割のプランナー、そのニーズを形にするWebデザイナーとエンジニアがチームを組んで業務に取り組んでいるが、本案件ではプロデューサー:黒木を筆頭に、アートディレクター/デザイナー:屋代、エンジニア:平尾、プランナー:小西という、チャレンジに貪欲な布陣で挑むことになった。
ロゴ提案はアートディレクター屋代が先頭に立ち、外部のデザイナーとも連携して進行した。
「ロゴは会社の顔でもあり、長く愛され続けるもの。プレッシャーもあったが、新しい領域にチャレンジできることが楽しくて仕方なかった。」
チーム内でアイデアを持ち寄り「せっかくWeb上で見せるのだから、動きや、自由度の高い面白いロゴにしよう」とダイナミック・アイデンティティを採用。のちにそのコンセプトはキャラクターも生み出した。
「ロゴって通常規定があるけど、最低限のルールを守っていれば何をしてもいいはず。だからキャラクターにしても面白いと思ったんです」。現在サイトの運用を担当する小西が楽しそうに見せてくれたのは、赤く四角形に近いロゴが伸びたり縮んだり、季節ごとに洋服をまとったり、犬のように歩いたり…と思わずクスッと笑みがこぼれるキャラクターのアニメーション。この遊び心から生まれた新しいロゴは、クライアントの心をがっちりつかんだ。
「最初、キャラクターにおいては数個しかなかったんですが、クライアントに見せたらもっと、という話になって。なんだこりゃ?という謎のキャラクターもいて(笑)、社員のみなさんが好きなキャラを選んで名刺の裏に載せていただくほど、愛されるロゴになったんですよ」と黒木は振り返る。
そしてロゴコンペを勝ち抜き、要となるサイトリニューアルの制作へと突入していくのだが、『フォントワークス』は“文字で魅せるサイト”にしないといけないという共通認識が4人の中にあった。フォントの企画・開発を行っている企業は全国でも多くはない。当時、同業他社のサイトも写真や絵といったビジュアルはほとんど使用されず、文字のみというシンプルなものであった。
「日本中のクリエイターが見るサイトで、いかに文字を魅力的に見せ、かつ興味を持ってもらうかが最重要課題。デザインの設計段階ではあらゆるフォントを使い、大小、形で動きをつけていきました」と屋代は語る。メインビジュアルは立体の文字をランダムに並べたものを撮影し、文字の動きを演出した。しかし屋代はまだ満足できなかった。「文字が自由自在にディスプレイ上であふれ出すようなデザインができないか」。そんな思いをエンジニアの平尾につぶやいた。答えは「現段階の自分の技術じゃできない。でもやる」。その挑戦が形となったのが、同社の代表的な製品・サービスである『LETS』のトップページで見ることができる。ディスプレイの奥からいろんな文字が次々にあふれ出すように流れてくる、躍動感に満ちた印象的なページだ。
平尾はこの演出を可能にするため、数学の三角関数をかなり勉強したという。「やれないよなあというより、やりたい方の気持ちが勝っていました。すべてのクリエイティブは無理だと思ったら実現しません。でもとにかく苦労しましたね(笑)」。両サイトでは技術的な面で平尾の力が大きく生きていると黒木は語気を強める。「クライアントの強い思いを一つひとつ読み解いていき、それを皆に伝えていきました」。
「好きなようにやらせていただいたことが大きかったですね。制約があればこちらにやる気があっても、やっぱり実現しなかった。『LETS』のトップページは技術的には大チャレンジで前例のない試みでしたが、これを見た人がフォントでこんな面白いことができるんだ、じゃあ使ってみようかなという気持ちになるかなと思ったんです」と平尾。フォントワークスから提供されたウェブフォントサービス「FONTPLUS」を活用し、日本語Webフォントの技術を使うことでこの演出が可能になった。デザイン面でも存分にいろんなフォントを使うことができ、多様な演出ができたと屋代も言う。
フォント検索機能も平尾の考えだ。同業他社のサイトにもない機能だが、これもこだわった技術の一つ。この点では先にプロトタイプを8割方つくり、クライアントに提案する形をとった。「クライアントが要らないといったらそれまでですけど、満足されていると黒木や小西から聞いて、やってよかったなあと思います」。シェアやツイッターなどでエンドユーザーの反応を得られることも、エンジニア冥利に尽きると平尾は瞳を輝かせた。
「Webサイトはリリースしてはい、終わりではない。むしろ、そこからが本当のスタートとも言えます」と小西は語る。サイトリリースから約2年、運用を支えてきた1人。小西はリリース後ずっと同社と向き合ってきた。
「ほとんど実店舗と同じなんです。洋服屋さんが季節によってディスプレイを変えるように、『フォントワークス』さんもサイトにデザインの変化を求めていらっしゃいます。それは他業態のサイトも同じなのですが、フォントは流行があって、“映画の宣伝でこのフォントが使われた”、“今度ゲームのパッケージにこのフォントが使われる”、“有名なアニメにこのフォントが使われることになった”など…更新ニュースも多いんです。ユーザーにとって影響力が強い内容なので、その見せ方についてクライアントと話し合います」。
自身のことをHUB(ハブ)と言う小西。クライアントの思いを形にしていくために、思いを様々な側面からくみ取るプランナー、それを具体的に形にしていくために指揮するディレクター、実際に形にしていくWebデザイナー、そしてエンジニア。それらはディーゼロの社内だけでは完結しない。外部のスペシャリストなどクリエイティブ方面ももちろん、クライアントに関連する企業などさまざまな人々がWebサイト制作に関わっている。「その人々をつなぎ、情報の中心になる…つまりHUBになるのが自分だ」と小西は語る。
「Webサイトは生き物ですから。どのサイトでもリリースして大体1~2カ月後に、大小ありますが、クライアント側から使い勝手の良し悪しの話をいただきます。『フォントワークス』さんの場合は、ナビゲーションをもっと使いやすくできないか、横書きの文字を縦書きにして表現できないか…などのご要望がありました。それが私だけで解決できるレベルのものではなく、エンジニアの平尾さんや、デザイナーの屋代さんに相談して解決してきました」。
プランナーの基本はコミュニケーションだと言う小西。「自分もWebを使うユーザーの一人。デザイン、技術…専門的なことはわかりませんが、私は好奇心が旺盛で、いろんな人の話を聞くのが好きで…。それがプランナーという職に生きていると思っています。ずっとクライアントと並行して走っていきつつ、少しリードできる存在となりたい。」
『フォントワークス』のクリエイティブ全般をディレクターとして手がけた黒木はどう思っているのだろうか。
「サイトを制作するにあたり、まず会社そのものを知らないといけない。フォントワークスさんについては会社の歴史よりも事業としている“文字”にフィーチャーしました。文字についてはWebももちろん、出版・印刷業界についても徹底して調べました。フォント…つまり文字の表現というのは、非常に長い歴史があって…文字って大昔は紙の上で木の枝を削ったペンを使い、削った木の汁をインクにして書いていたんですよ。最近では「紙の上のインクで描いた文字」よりも、「ディスプレイ上で光る文字」を見る量が圧倒的に多くなりました。50年前はデジタルの文字など一つもなかったんです。文字の持つ何千年の歴史の中でこの30年ほどの変革はスゴイです。大転換期に今、私たちは生きているんです」。興奮気味に語った後、こう加えた。
「紙の上のインクは止まったままですが、ディスプレイ上の光だったらゆらゆら動いてもいいじゃないか。でもフォント側がそんな考えに追い付いていない。フォントだってどんどん変わるべきだとクライアントに提案したんです」。
“ウェブサイトをつくる”。一言で言うと簡単だが、そこにはさまざまな人々の思いが詰まっている。目的がある。黒木は言う。「すべてはお客様の問題解決のため」。最初、『フォントワークス』のオリエンテーションに否と答えたのも、本気でクライアントのことを考えたゆえのことで、プロに徹するディーゼロでは珍しいことではない。つくる喜び、役に立つ喜び、喜んでもらえる喜び、さまざまな喜びで満ちているディーゼロ。自分の力が、チームの力が社会に貢献しているというダイナミズムを感じられる。その経験がモチベーションとなり、ひいては実績となって信頼を獲得し、そして次なるクリエイションにつながっていくのだろう。